それは夜勤明けの日に起こっていた。明けの休みを挟んで2日ぶりの出勤。(有料老人)ホームに行くと入居者Mさんのお金が無くなったという。そして(犯人として)僕のことが疑われているとのこと。何故???と言うのは次の通り。


 数日前Mさんの娘が来所した時に、買い物用としてMさんに2万円を渡したのこと。Mさんはそのお金を自分の財布にしまった。(そのことは娘も確認)

 そして僕が夜勤の日。Mさんを夕食前後と就寝前にトイレに誘導する。夜中も確か1度NCがありトイレに誘導。そして朝食前と朝食後にも誘導。ちなみにMさんはトイレに行くときはいつもナースコール(NC)を鳴らす。それに対して職員はMさんを車いすでトイレに誘導する。そして終わればまたNCを鳴らしてくれるので、再び職員にて誘導する。19時半以降次の日の7時まではそのフロアに職員は夜勤の僕ひとりなので、MさんのNCも当然全て僕が対応した。それ以外は僕が対応したのもあれば他の職員が対応したのもある。

僕は朝食介助を終え、朝のミーティングに参加して、いくつかの雑用をこなし、すべての夜勤業務が終了したのが10時すぎ。介護主任(代行)の僕は夜中も様々な作業に追われくたくた状態。フラフラ状態で帰路へと向かう。


 僕が帰ったその日Mさんの顔色が変わった。何故なら午前中にMさんが財布を確認したところ、あったはずの2万円がなくなっていたから。ちょうどその日娘が来たので、Mさんは娘にそのことを話す。そして娘は施設へ訴えた。娘さんの話では昨日の夜Mさんが財布を確認した時には2万円はあったとのこと。


 その話を総合すると、僕が夜勤の日の夜にMさんが財布を確認した時には2万円があった。けれども翌日の午前中に再び財布を確認すると確かにあったはずのその2万円が紛失した。状況的に盗ったのはその日の夜勤者に違いない。つまり犯人は僕。ひえ~。


 僕は断じて盗っていない。でもMさんはすっかり僕を犯人だと思い込み、不信感満々。


普段Mさんは自分の枕の下に財布を入れ、食事の時など部屋から出る時にはその財布をカバンに入れ車椅子の背もたれと自分の背中の間に入れて移動する。それがMさんの習慣。唯一財布から離れるのが、食事前後のトイレ入った時(この時財布の入ったカバンを車いすに置いておく。)と、お風呂の時。


 それらのことを考えると如何せん状況は僕が怪しい。限りなくクロに近い。けれども僕は全く身に覚えのないこと。まさか朝食前のトイレ誘導の際、夜勤疲れの無意識下で盗んでしまったか?そんなはずはない!これまで自分のお金をつぎ込むことはあっても盗ることはない。じゃあなぜ、どうしてお金は無くなってしまったのか???


 フロアリーダーに「状況からすると、僕は極めてクロに近いね。」と言うと、「そうそう。」と。フォローしろよ!(今リーダーとは信頼関係はできているので、まさか僕が盗ったとは思っていなかっただろう…???)


 しばらくの間僕はMさんのトイレ誘導はせずに状況を見ていた。けれどもお金がベッドの下から見つかったなどと言う報告もないので、数日後僕はMさんの居室に行き、直接僕は盗っていないことを訴えた。けれどもMさんは「警察に言ってもいいよ。」とのこと。僕とMさんの信頼関係は完全に壊れてしまった。


 更に悪いこと(?)に、僕はその施設をあと1週間で辞める。(高齢者介護を終わりにする。)周りから見れば残り1週間だから…なんて思われなくもない。でも職員は…。他の職員を疑うのも嫌だ。気の合う人もいれば、合わない人もいるけれど、介護する人に基本は、少なくとも僕が主任代行する現場には、そんなことする人はいないと信じたい。とか言いつつ疑ってしまいましたが…。(いろいろな施設で盗難の件で新聞沙汰になったりもしますが…。)


 結局Mさんとの信頼関係は崩れたままで終わってしまった。その後お金が出てきたとの話も聞かなかった。だから僕の直接介護の終わりはとてもビターなものとなってしまった。今でもあれほど嫌な思いをしたことはなかった。何度も言うが、そして今でも言うけれど、「僕は盗っていない。」


 高齢者施設の中で働いていると時々お金のトラブルは発生する。もしかするとこれを完全になくすことは不可能なのかもしれない。(例え完全クレジット制とかスマホ課金制とかしたとしても…。)けれども施設の中でお金のトラブルに巻き込まれるのは二度と嫌だ!


 心に傷を負った。







らいふあーと21~僕らは地球のお世話係~