東京にあるベッド数86床の特別養護老人ホームの出来事である。

2階に44床、3階に42床、つまり2階に44人、3階には42人の入居者が暮らしていた。

現在介護施設はユニット性(少人数制)や個室が主流となっているのだろうが、当時はまだ4人部屋が主であり、個室はあっても1室か2室、もしくは2人部屋がわずかにある程度だった。

その施設では夜勤帯は各階2名計4名の介護職員が勤務していた。


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ある日の夜勤のこと。

その日はヨッちゃんとの夜勤だった。

ヨッちゃんは当時20代前半のキャピキャピのギャル(死語?)で、普通の子とは全く違った思考回路の持ち主だった。

よく言えば超個性的、悪く言えば超エゴイスト。

今はどうか知らないが、かつての神田○ののような子だった。(顔も似てるかも…?)

ひと言でいうと、よく介護職員としてやっているなと思える子だった。(事実介護職員を辞めた後は夜のお仕事に…(という噂))

けれどもヨッちゃんとはお互い変わり者同士ということで仲の良い職員の1人だった。



さて、夜勤の仕事は忙しい。

夕食介助を終え、誘導、着替え、臥床、後片づけなどなど諸々の仕事をしなければならない。

遅番の職員も19時までだ。

残りはすべて夜勤職員でしなければならない。

ひと段落すると職員もお腹がすくのでわずかな時間で夕飯をかき込んで、今度は消灯時のトイレ誘導をして、入居者をベッドに寝かせ、その後も洗濯等諸々の仕事が待っている。

テキパキこなしていかなければどんどん仕事が溜まっていき、朝まで働きっぱなし状態となってしまう。

なんといっても夜勤者は17時から翌日10時までの17時間勤務だ。


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消灯時の仕事が終わり、ようやく1時間ほどの小休憩。

スタッフルームに戻ってくるとヨッちゃんが何を思ったかお茶を出してくれた。

「コレお茶どうぞ。一緒に飲みましょ。」

「エッ!何?どうしたの?」

これまでヨッちゃんがお茶を出してくれたことなどない。

一体何が起こったのかと驚きつつ、少々不安にかられつつ、それでもヨッちゃんのその行為を有難く思いお茶を頂いた。


半分ぐらい飲んだころヨッちゃんが、

「これお通じの良くなるお茶だから。」とひと言。

「何それ?このお茶でお通じがよくなる?」

何かあるのではと思ってはいたけれど、そんなお茶とは知らず飲んでしまった…。

けれどもお茶だし、いくら便秘にいいとは言いつつ大したことなかろう、と思って全部飲んだ。



そして再び仕事に戻る。

今度は12時前の排せつ介助、巡回、そして別の階のヘルプにも行き、洗濯ものの作業だ。

それらの仕事を終え、まずはひと通りの仕事が終了。時間は0時30分。

椅子に座って書き物などをして1:00。仮眠の時間となった。

その日は先に仮眠を取らせてもらうことにした。

ヨッちゃんに「休憩頂きま~す」と告げ、休憩室でひと休み。



2:30仮眠終了。ヨッちゃんと引き継ぎをして、今度はヨッちゃんが仮眠の時間となる。

しばらくしてから各部屋に入居者の様子を見に巡回へ出る。

懐中電灯を片手に201号室から211号室まで順番に入居者さんの状態確認。

みなさんスヤスヤ眠っている。



順調に205号室まで巡回を終えた時、それはいきなりやって来た。

お腹が急にギュ~っと音を立て、猛烈な便意が僕に襲ってきた。

「ウワッ、何だこれ!」

これまでに経験したことのないほどのトイレに行きたいモードだ!

巡回の途中であるけれど、業務中断も仕方がない。

僕は職員トイレへとダッシュした。

職員用トイレはスタッフルームの裏側にあり、配置的に回り込むような構造になっている。

小回りを利かせ超速ダッシュする。アコーデオンカーテンを開けトイレの前までやって来てドアを開けようとすると、鍵がかかっている!

何故?

何故鍵がかかってんの???

もしかして…ヨッちゃんが先に入っている~!


待とうとするが、もう待てない。

早く終わらせよ~と怒鳴りたいところだが、そうもいかない。

このままではヤバイ!


そして僕は再び走った。

今度は入居者さんの居室へ!

そして「トイレ借ります!」と声なき声で断り、大急ぎでトイレに座る。


セーフ!!

怒涛の勢いで…、超大量の○○〇が…。

ズボンをあげ一連の作業が終わると、何だかどっと疲れてしまった…。



その後巡回を終わらせ、いくつかの仕事をこなし、再びひと息つきにスタッフルームに戻ると、ヨッちゃんが

「すごくない?」

「すごいどころじゃないよ!死ぬかと思ったわ!」

笑い転げるヨッちゃん。



そのお茶はセンナ茶
と言われるものだそうだ。

こんなお茶が世の中にあるとは知らなかった。

今もその名を覚えている。


そうして何とかその日の夜勤を終わらせた。

もしあの時、トイレに間に合わなかったら、一体どうなっているのだろうかと考えると恐ろしくなる。

まあ特別養護老人ホームだけに紙おむつは溢れるほどあるのだが…。

そして都心から郊外への太陽が照り付ける電車に揺られ、居眠りしながら帰っていった。



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もう会うこともないだろうけど、もしヨッちゃんと会うことがあれば、きっとあの日の話題で盛り上がるだろう。

風の噂ではヨッちゃんは今では2児のおっかさんになってるという。

当時の性格からするとモンスターペアレントになっているのではないかと心配する今日この頃であるが、いいお母ちゃんになっていることを願う次第である。



最後に便秘でお悩みの方お試し下さい。








らいふあーと21~僕らは地球のお世話係~