民族同士の対立とは、憎しみは憎しみを生み、その憎しみは代々引き継がれていくのでしょうか?歴史を見てみるとそのように思えます。けれども時に私たちは歴史的和解を目にすることもあります。憎しみでもってそれをエネルギーとして生きているものもいます。その魂の安らぎは憎しみや権力でしか癒されないのでしょうか?いつかその魂もそこから解放される日が来ることを願いたいものです。


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カムヤマトイワレビコとその兄は筑紫を出発し、瀬戸内海沿岸を次々と征服していきます。村々は概して穏やかな人々が多く、彼と兄の手にかかればその村を配下に収めることはそれほど困難なことはありませんでした。しかしながら徐々に彼らの噂は広まり警戒する村が増えてきたことも確かでした。


時に彼らは支配下に治めた地に何年もの間滞在し、その一帯を仕切ると同時に、村人たちに開墾させ兵糧を蓄えると同時に、若者を兵士へと育てていきました。そして力ある彼らこそがこの地を治める者であること、そしてその配下にて従い、協力するならばその地の統治を任せること、兵として多大な貢献をしたものにはそれ相応の権力を渡すことを約束したのでした。それ故に先んじて彼らに近づき、協力する代わりに便宜を図るよう求めて来る者も増えてきたことも確かでした。そうして彼らは徐々にその勢力を増しながら東へと向かっていくのでした。


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さて内海は概して穏やかな海ですが、時に潮流の速いところや時化る時もあります。海を渡り慣れた者に先導させはしますが、さすがに彼らも慎重にならざるをえませんでした。中には操作を誤り潮流に飲み込まれてしまった船もありました。もともと彼らは大陸を馬やラクダで旅してきた一族でしたので船での進行は得意ではありませんでした。それ故に海上を進むには地元の者に頼らざるを得なかったのでした。無事にそこを通り抜け再び穏やかな内湾に入った時彼らはホッとしたのでした。しかしそれも束の間であり彼らの目の前には彼らのことを聞きつけていた登美毘古の軍が待ち構えていたのでした。


登美毘古軍は暗闇のうちにカムヤマトイワレビコとその兄の眠る船に近づき、夜明けと同時に襲撃を開始したのでした。彼らの奇襲により軍は混乱に陥りました。二人は必死に反撃を試みますがその地の地形を知り尽くした登美毘古の方が俄然有利でした。応戦一方になりながらも兄は敵方の大将登美毘古の姿を前方に見つけます。しかしそれと同時に朝陽が昇り、その眩しさに一瞬前が見えなくなったその時、登美毘古の弓から放たれた矢が彼の腕に突き刺さりました。それによって片腕が使えなくなった兄をみた登美毘古とその軍はここぞとばかり攻め込み、カムヤマトイワレビコとその兄の軍は撤退を余儀なくされたのでした。
 


兄は登美毘古の姿を見ると同時に朝陽で目の前が見えなくなったことを悔い、朝陽に向かって戦うのではなく、背にして敵を討つようカムヤマトイワレビコに伝えます。そうして一軍は湾沿いに東へ進むのを止め、湾を大きく迂回し南へと船を進め登美毘古のいる湾を回り込み陸地から攻めることとしたのでした。



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兄の腕に刺さった矢には毒が塗られていたため兄の腕はみるみると腫れ上がっていきました。と同時に彼の身体は熱を発しました。大陸時代から伝わる毒抜きも効果を発揮することなく、兄は日に日に衰弱していきました。紀国の陸地でしばらく養生しますが、兄は何も口にすることができず遂に力尽き果ててしまいます。国造りの途中で果てることの無念さをつぶやきながらカムヤマトイワレビコに看取られて息を引き取ったのでした。


兄を失ったカムヤマトイワレビコのショックは相当のものでした。これまで兄と大陸から海を渡り東の果てのこの地へ入り、何世紀にも渡る支族の悲願である国造りに向けて動き始めたところでした。その兄がこのようなところで息絶えるとは思いもよりませんでした。もともと武力に関しては兄よりもカムヤマトイワレビコの方が勝ってはいましたが、思慮深さにおいてはずっと兄の方が上でした。その兄が今まさに彼の腕の中で永遠の眠りに就いたのです。彼の頬を一筋の涙が伝いました。


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けれども彼はすぐに泣き止みます。そのショックを周囲に見せしまえば軍が動揺し、不穏が増します。彼はこれまで祖父を殺され、父母が息絶え、そして多くの仲間が果てていったことを思い出しました。そしてその無念を晴らすためには千年王国の礎を築かねばなりません。彼がこの先進めなければなりません。彼は兄を大樹の下に葬り、その際に兄がしていた腕輪を彼の腕にはめ、そして立ち上がったのでした。


我らは神に選ばれし一族、ガト族。神の住むこの地(イースター)に千年王国を築くことこそわが一族の悲願であり、神からのお告げ

カムヤマトイワレビコは天を仰ぎその成就を誓うのでした。そして兄の腕輪に手をやり兄の死ぬ間際に彼に言った言葉を思い返しました。


我が魂はお前を導くカラスとなり現れるであろう。


彼は兄が再び彼の下に現れ、一族の悲願の成就に向けて力を貸してくれることを確信したのでした。
 

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